伝統と革新の二刀流で未来を拓く、富山の3代目社長の飽くなき挑戦。
株式会社ハシモトBaggage
代表取締役社長 橋本 昌樹
1991年 富山県生まれ。國學院大学卒業。
2014年 株式会社ジーユー 入社。
2016年 ハシモトグループ 入社。
2021年 ハシモトグループ 代表取締役社長就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
二代目社長の父に入社を断られ、ファッションブランドの店長に。
ハシモトグループは「フィットちゃん」などで知られる、富山のランドセル製造・販売メーカーです。わたしは2人の姉を持つ末っ子長男として生まれ、子どものころは周りから「3代目」などと言われてきました。ですから、自分は将来、この会社を継ぐんだろうと漠然と思っていたんです。
ところが、いざ就活の時期になり、父に「ハシモトに入れてほしい」とお願いしたところ、あっさり断られてしまいました。「後を継ぎたいなら、他の会社で3年間働いて成果を出してこい。そうしたら考えてやる」と言われてしまったのです。
そこで、ハシモトと同じSPA(製造小売業)業態の企業を探して就活し、2014年に株式会社ジーユーに入社しました。やがてそこでの仕事ぶりが認められ、2年目の終わりごろには、店長として売上の大きい規模の店舗に異動する話が出てきました。
ところが、その話を聞きつけた父に、急に「戻って来い」と言われました。「大型店に異動したら、仕事が楽しくなってもう富山に戻ってこないだろう」と思ったんでしょうね。そこで、「売上の高い店の店長よりも、俺の横で仕事を見ていたほうが絶対勉強になるぞ」という父の言葉もあり、ジーユーを辞めてハシモトに入社しました。
人事評価制度の改革と人材活用で生産効率が1.35倍に向上。
いざ入社してみたものの、最初は所属部署もなく部下もいない。一応「課長」という肩書はあったものの、何をすればいいのかわからない状態でした。父にも「そんなことを俺に聞くな」と言われる始末。仕方がないので最初の1カ月間は毎日、経営の本ばかり読んでいました。
前職での私は店長として店をバリバリ回し、それなりの成果を挙げていました。でも今の自分はランドセルが作れるわけじゃないし、会社のことに詳しいわけでもない。だからこそ、会社に対してなんらかの成果を出さなければここにいる意味がないと思ったんですね。
一方で、前職の経験から「コミュニケーションを密に取りながら適材適所に人を当てはめ、仕事をしやすい環境を作ることさえできれば、組織はうまくいく。会社としてまず一つ、成功体験を積むことができれば、きっとみんながついてきてくれるだろう」という思いがありました。
だから、まずはランドセルづくりを一通り学ぼうと考え、職人やパートの方にランドセルづくりをイチから教わりました。そうやって工場を回るうちに、昔ながらの職人気質な考え方が蔓延しているなど、現場のさまざまな問題点に気がついたんですね。
そこで、次に取り組んだのが人事評価制度の改革です。まずは数字を使ってコミュニケーションが取れるようにしようと、3カ月ほどかけて全工場をまわりながら、社内の改善点をリストアップしていきました。その成果のひとつが、一人が1時間あたりにできる作業量をはかる「人時(ニンジ)」という考え方です。これによって数字で作業量が可視化でき、みんなが自然と生産効率を意識できるようになりました。
さらに、一人ひとりの従業員に関して、担当部署内におけるすべての業務を対象に、自分が「できること」と「できないこと」を書き出したスキルマップも作成しました。それをもとに、それぞれの社員にスキル向上に向けた年間計画を立ててもらい、それをベースに毎月面談で上司が進捗度合いをチェックしたり、相談に乗ったりできるような体制をつくり上げたのです。
社長就任後、力を入れている取り組みとは。
ハシモトグループの代表に就任したのは、2021年末、30歳のときでした。それに伴い、これまで父である会長が行っていた経営における最終判断を、自分ですべて担うことになったのです。当時は自分のセーフティーネットがなくなったような気がして、その重みに圧倒される日々でした。
さらに、当時の社員の半分以上は、私が採用した人たちではありませんでした。私が採用した人であれば、たとえ私が新しいことや挑戦的なことをしていてもある程度は寛容な目で見てくれるでしょう。けれども、 父の代からこの会社に勤めていて、私の代になっても引き続き残ってくれている方々に対しては、しっかりとしたフォローが必要になります。
会社の体制をどのように変えていくかを考える際にも、この点においてすごく悩みながら、対話を重ねていきました。私が代表に就任して以来、特に力を入れている二つのことがあります。一つはランドセル事業の安定した運営を行うこと。そしてもう一つは、新しい事業を立ち上げることです。
高い技術力と攻めの商品開発でランドセルに高い付加価値を。
国内における出生数が80万人を切るなど少子化が加速するなかで、海外市場も含めて、今後どのようにして安定したシェアをとっていくかが大きな課題となっています。
ランドセルは、子どもが使って保護者がお金を出すという、いわば使い手と買い手が異なる商品です。ですから、子どもが喜ぶ「デザイン」と保護者が納得する「機能」を両立させることが大切になってきます。
色やデザインに加え、容量や耐久性、6年間保証はもちろんですが、近ごろは背負ったときに「さらに軽く感じる機能」を求める声が圧倒的に増えてきているんです。
そのため当社のランドセルには、人間工学に基づいた独自開発の肩ベルト「楽ッション(らくっしょん)」を採用するなど、さまざまな工夫を凝らしています。そのほかにも、さまざまなオリジナル技術や特許技術が詰め込まれており、こうした点が高い付加価値となっています。
さらに、2024年度の新商品として、フィットちゃん史上最も軽い940gからのランドセル「ゼロランド」を発表しました。最近は、ランドセルリュックが注目されてきています。そこで、通常のランドセルとランドセルリュックを比較したところ、耐久性、背負い心地、保証などは通常のランドセルの方が優れていて、ランドセルに足りていない要素は「軽さ」だけということが分かりました。
そこで社内で開発チームを立ち上げて、ランドセル用の生地を使い、丈夫で、背負い心地もよく、6年間保証もあり、さらにリュックより軽いというランドセルを作り上げることに成功したのです。「ゼロランド」は当初、会長に「これ、本当に売れるのか?」と聞かれましたし、同業者からも「何をやっているんだ」なんて言われました。しかし、いざ蓋を開けてみると、たちまち人気商品になりました。
一見、常識外れに思えるようなことであっても、お客さまのニーズを満たした商品を作りさえすれば、必ず結果はついてくる。自分たちの目指しているものが間違っていなかったことを証明できた瞬間でした。今後もまわりから「あいつら、何やっているんだ」と言われるようなことに、真正面から真面目に取り組んでいきたいと思っています。
10年後に「ランドセルもやっていたんですね」と言われる存在に。
もう一つ力を入れていることは、新しい自分の事業の立ち上げです。会社の77年の歴史において、祖父は「布製学生カバン」の製造・販売をするハシモト商店を起こし、父はランドセル事業を起こした。だから、次は自分の番だと思っています。
さらに、コロナ禍を経験したことにより、どんなに盤石な事業であっても環境次第で消えてしまうリスクがあることを、身に染みて感じました。大切な社員たちの生活を守るためにも、ランドセルだけに頼らない新しい事業の柱をつくる必要性を痛感したんです。
ですから、今後はランドセル事業を現在の規模で維持したうえで新しい柱となる事業を立ち上げ、さらにそれを拡大させていきたいと考えています。その第一弾として、2023年3月には、職人がつくる日本製抱っこひも「HUGLM(ハグルム)」のブランドを立ち上げました。
現在は、さまざまな事業にチャレンジすべく、社内に新しいプロジェクトチームを立ち上げ、海外進出を視野に入れたチャレンジも進めています。今後もどんどん新しい挑戦を続け、将来のハシモトを担うような大きな新事業を作り出す。その結果、「10年後には『ハシモトって、昔はランドセルメーカーだったんだね』って言われるようにしよう」、こういった話を常々社内でしています。
求めているのは、仕事に対して真面目に向き合える人材。
当社が求める人材は、一言でいえば「真面目で大胆な人」です。ランドセルは子どもが使うものだからこそ、社会的信用を得ることが非常に大切です。もしも、少しでも悪い噂や良くないことが起きたときに、そこから逃げずにしっかりと向き合える真面目な人材であるかどうか。これは会長の代からとても大事にしてきたことでもあります。
また、先ほどもお話したように、ランドセルは子どもが使って保護者がお金を出すという、いわばマーケティングが独特な業界です。前職でやってきたことがそのまま通用するわけではないため、前職での実績は採用における最優先事項ではありません。
さらに、会社によっては「数字さえ出してくれれば、細かい働き方は任せる」というところもあるかもしれません。しかし当社では、仕事に対して正面から真面目に向き合える人間であるかどうか。この点を、いわば能力よりも重視しているんです。
なお、当社のマーケティングチームは半数以上が中途入社です。私を筆頭に、さまざまな異なるバックグラウンドを持つ社員たちが、これまで世の中になかった新しいものを作り出そうと、毎日ワイワイと楽しく、そして真面目に仕事をしています。
当社ではランドセル事業が安定していることもあり、高い自己資本比率を維持しています。他社と比べても挑戦できる土壌が整っています。こんな我が社で私たちと一緒に未来を切り拓いていきましょう!